恭弥さんの日記

徒然なるままに好きなことを綴っていく

いつ私のものになるの?奥さんと別れないなら死んでよ。

12月26日。とあるバーで飲んでいて、不自然な年の差のある男女が仲睦まじく私の隣の席に座った。広島訛りのある男女だった。
最初は親子かと思っていたが、距離感が如何せんおかしい。
彼らからシャンパンを頂き、更にはお酒の代金も出していただいたが、目の前ではっきりとした不倫を見て、私はとても不快になった。

私は小学生の時に2年ほど、母親の不倫を眺めて過ごしてきた。当時はそれが朧気にしかわからなかったから口には出さなかったけど、今なら確実にわかる。あれは不倫だ。
なぜ分かるかって?そんなの、私も不倫した経験があるからだ。もちろん私が配偶者を裏切って不倫したとかではない。私は未だ独身だ。
私は過去いいなと思っていた2つ年下の男性に、不倫相手として選ばれたのだ。
彼が私と会った日、彼は指輪を外していた。彼が当時婚約していることも私は知らなかった。そして私が彼と付き合っている間に彼が婚約者と入籍して、でもそれを私は知らなかった。大変間抜けだ。いや、だからといって不倫していい訳では無い。そんなの、当たり前だ。
これを教えてくれたのは、彼と私の共通の友人だった。彼は奥さんがいるよ、左の薬指に指輪をしている。短い忠告だった。それだけで私が2番目であることを悟った。悲しくはなくて、ただ彼のことをなにも知らない事実に愕然とした。そして奥さんがいること。彼と私が会った時には既に婚約していたこと。彼女のお腹の中には子供がいること。他にも、同棲していることやセフレがいること、私の知らない彼の姿。そういうプライベートなことを沢山教えて貰った。
彼への愛情は、それを聞いたその日に冷めた。でも彼から離れるには、私の中の依存心と寂しさが大いに邪魔をした。
相手がいるとわかった時点で、即刻離れるべきだったのに、どうしても別れられなくて何度か食事に行った。ちなみに別れ話はなくて、ホテルの誘いを断ったら縁が勝手に切れた。ありがたい。
あと裁判沙汰になった後輩の不倫に巻き込まれたりもした。結構なごたごたに巻き込まれて、友人を何人も失った。辛い。
こういうことがある度に不倫は私へ罪科を突きつけてきたし、既婚者が相手を搾取するその構図を思い知って不愉快になった。

既婚者が若い子を不倫に誘うことのなにが不愉快か。なにをそんなに不愉快になることがあるのか。そんなの単純だ。
自分は配偶者も子供も仕事も、もちろん不倫相手だってなにもかも捨てないくせに、相手にはこれから手に入るはずの恋人も配偶者も家庭も子供も、必要であれば仕事も、なにもかも全部自分のために諦めて捨ててくれ、というその姿勢だ。
自分はなにかと理由をつけて家庭を維持するけど、相手に対してはそれを許さないのだ。
こんなの不平等。
どう考えても相手が不幸になって構わないと言っているようなものだ。どう見ても不幸の道に引きずり込もうとしている。そんなのは、愛じゃない。

不倫相手である彼女は可愛い子だった。まだ24歳だと言う。相手の彼は51歳。親子ほどの年の差だ。
可愛らしい彼女はもともとキャバクラで働いていて、彼はキャバクラで働いていた時のお客さんだったそうだ。
一瞬『やめたほうがいい』と忠告しかけた。
でも彼女が、彼はもう奥さんと長いこと別居してて〜とにこにこして言うその顔に、これは無理だろうなと思った。
首ったけ、代わりにそんな言葉が口を衝いて出た。

彼女が言うには、彼は奥さんとは長いこと別居してて、もういつ離婚してもおかしくない状況なのだという。
それでも彼女は奥さんへの嫉妬に狂いそうでどうしようもなくて、全て振り切るために沖縄にやってきて、これで別れるかなと思ったそうだ。
もう嫉妬に狂うこともないかな、と。
でも彼は追いかけてきて仲良くしてくれて、だから信じることにしたらしい。
早く私のものになってね、そう言って彼女は可愛らしく彼の頬にキスをした。

昨今はパパ活が流行っているが、パパ活女子のように既婚者と付き合っても相手の家庭を壊すことなく、美味しいところを味わってすっぱりやめられる人もいるだろうけれど、大抵の場合は結婚願望があるのに相手の離婚を年単位で待ち続けたり、相手の家族に知られて地獄を見たりと、なにかしら傷つくことになる。
そうして傷ついた相手に、不倫相手でもいいって言ったのは君だよね、と難なく切り離すのだ。

51歳のおじさんは彼女に口説き文句と額や唇へのキスを贈っていた。愛してる。君だけ。何度も何度もそう言って抱き寄せていた。
どれだけ愛しているかを語り彼女を抱き寄せる。その度に彼女は嬉しそうに笑った。
彼への感情がなければ、彼女も既婚者が何を言ってるんだと跳ね返したかもしれない。あるいはキャバ嬢として金銭と引き換えに『恋愛ごっこ』を全う出来ていたら、不倫なんてしなくても良かったかもしれない。
だって既婚者は相手が真剣な恋愛を望むこと、自分を恋人として見ることをわかっていて、手を出すのだから。既婚者は本当にタチが悪い。

彼女がバーで1曲、彼に贈るから歌いたいとそう言ってマイクを取った。
選曲はあいみょんのデビュー曲「貴方解剖純愛歌〜死ね〜」だ。
彼を真っ直ぐ見ながら歌うその姿、彼にどうしてそばに来てくれないの?いつ私のものになるの?と問いかける彼女を見て、なぜ彼は彼女の努力を水の泡にしたのだろうかと思った。
彼女は充分に傷ついて悩んで苦しんだはずなのに。

不倫関係にある男女って、既婚男性と独身女性の組み合わせ、つまり立場も年齢も男性側が上の場合が多い気がする。何故だろう。
彼はそれなりに常識は持ち合わせているはずだ。自分の家族が待つ家に、配偶者に、子供に、彼女がなにもかもをバラす為にやってくる未来を想像したことはあるのだろうか。
そして不倫の責任はどこにあるのだろうか。
既婚者側が独身だと偽っていた場合を除いて、不倫の責任は両者にあるのは間違いない。
だから奥さんと彼女への責任とケジメをいつ付けるのか、いつ離婚するのか聞いてみたかった。彼女は早く離婚してねと言って笑って、彼ももちろん離婚したると言っていたけれど、期限については言及していなかったし、ひとりの女性の若い時間を、少なくともあと数年は搾取し続けるつもりかもしれない。
あのおじさんの脳みそには精子が詰まっている。絶対そうだ。

彼女が次に二人の関係について考える時はいつだろうか。きっと別れを告げる度に彼は彼女に縋り、離婚を仄めかし泣いてみせるだろう。その度に別れられなかった!そう言って幸せそうに笑うのだろう。
きっと奥さんに嫉妬して泣く夜もあって、それを彼はすぐに離婚するよと抱きしめてセックスするのだろう。
もうこうなったら彼女が爆発して事故を起こすか精神的に疲れるまでは止まれないかもしれない。

不倫はなんとなく麻薬に似ているなと思うのは、私が不倫を経験したからだろうか。
それにしても、ほんとうに気持ちの悪い時間だった。
私に出来ることは、彼女が早く目を覚ましますように。幸せになれる誰かと出会えますように。そう祈るくらいだ。