恭弥さんの日記

徒然なるままに好きなことを綴っていく

母と私と結婚の呪縛

「いい、よく聞いて。恭弥は結婚が幸せだと、一番だと思ってるけど、必ずしも結婚が幸せじゃないの。 結婚だけが良い人生、いい生活、いいゴールじゃない。それだけはよく覚えていて。」
 
酔った母が、まだ中学生にもなっていないような私に言った言葉。
母は私にいい学校に行って、いい会社に入りなさいと言い続けているのに。
結婚する人はあなたより確実に収入のある人よ。
若いうちから彼氏の一人や二人くらいは、とかなんとか言うくせに。
でも結婚が良いだなんて言わなかったなとその時にふと気づいてしまった。
 
そりゃわかってる。というよりも母はシングルマザーだ。
私が5歳を半分ほど過ごしたあたりで父とは別居して、いつの間に離婚していた。
父の顔はもう写真でしか知らない。最後の約束はまた遊ぼうね、だった。
だから王子さまや結婚に夢や希望はあっても、結婚はできる気がしなかったし、 母と同じ道をたどるんだって勝手に思っていて、結婚で幸せになれるだなんて考えたこともなかった。
 
シングルマザーで彼氏がころころ変わって、バリキャリで、仕事とお金と子供が大好きなお茶目で優しい母。
週一回の休日に夕方からちびちび晩酌し、弟にじゃれ付き、私に甘え、盛大に酔っぱらって騒ぐ。
それに付き合うのが、長年の習慣になっていた。
 
そして母は晩酌のたびに時々思い出したように、結婚はいいものじゃない、と私に言うようになった。
でも結婚しなくとも、事実婚でいい。結婚が苦痛なら、離婚なり別居なりして家に戻ってくればいい。
同性愛に目覚めて、女の子のパートナーを持ってもいい。その場合は人工授精してくれ。
たとえ一生涯結婚しなくても、精子バンクでも利用して子供は絶対産んでくれ、とこれだけは口酸っぱく言うようになった。
 
そうして顔を顰める私に 「でも世の中の同年代のお母さんよりよっぽどお母さんは優しいでしょ」 とカラカラ笑って見せる、私の母はこういう母だった。
 
私には今交際2年目になる恋人がいる。2つ年下の、かわいい恋人だ。
とても真剣に、そして丁寧に交際してくれている。結婚だって考えているし、彼も考えてくれている。
子供は1人がいい、2人がいい。犬と猫が欲しい、猫だけがいい。
出産は里帰りか実家帰りしたい私、それを渋る彼。時々意見が割れたりしているが、大きなけんかもない。概ね関係は良好だ。
そろそろ同棲かな?なんて考えているし、ご両親へのご挨拶とうちの両親への紹介もしたいな。
 
そうして考えているときに、冒頭の母の言葉が頭を過る。
私さ、きっと一人でも生きていけるんだと思う。というか、一人で生きていけるよ。
自分の力でなんとかできてしまえる。結婚なんて別にしてもしなくてもいい。
だけど、この先長い時間をひとりで生きてく自信なんてないし、やっぱり怖いとも思う。
この先の人生は、誰かと一緒じゃないと、って思ってしまうんだよね。
だってもし今の生活を続けるんだとして、この先に結婚も子育てもない。
そうしたら、今が一番幸せってことになっちゃわない?
満たされなくなるいつか、幸せでなくなってしまうかもしれない未来が怖い。
これはヘルタースケルターで泣いたあの時と同じ感覚だ。
だから次のステップに進む必要があるんだけれど、結婚だけが幸せじゃない、そういわれてしまったらもう、 どうしたらいいかわからなくなって、すべてを誰かに決めてほしくなってしまうのだ。
 
これは母の人生の中で見つけた真理だが、幼い私には耳に張り付いた呪いの言葉に等しかった。
「いい、よく聞いて。恭弥は結婚が幸せだと、一番だと思ってるけど、必ずしも結婚が幸せじゃないの。 結婚だけが良い人生、いい生活、いいゴールじゃない。それだけはよく覚えていて。」
 

私はシンデレラのように、結婚で幸せになれるのかしら。