恭弥さんの日記

徒然なるままに好きなことを綴っていく

尾形百之助を考える②

 尾形百之助に狂っている人間だから、延々と彼のことを考えています。私はきっと尾形を形成する要素、家庭環境や境遇すべてをひっくるめて尾形を愛してるんだと思う。支離滅裂で矛盾と破滅の気配を背負いつつも、ニヒルに笑う彼が好きなのだ。とはいえあの態度も性格ももとは自分を守るためとか傷つかないように予防線を張るためだったろうから、もし環境が違ったらならばきっときっと、大層な天然さんになっていたのかもしれないと思う。いやもうすでに天然か。飯盒の穴に気づかずカチカチになったお米を黙々とつついてたり、宇佐美に騙されて一人ぽつねんと訓練場所に立ってたりした男だもんね。あと尾形は気が抜けると蝶々を追いかけることがあるのが、なんかもう本当に幼い。そんな男に「頼めよ『助けてください尾形上等兵殿』と」とか言われても、そりゃあ源次郎も頷かない。というか頷けない。

 そんな尾形が人生で初めて「やっぱり俺ではダメなんだ」と感じたのが、唯一愛してる実の母に対してというのがなんともやるせない。何一つ望んだものは与えられなかったのに、母に対する悪口とか恨みつらみが一個もないところも辛い。尾形は本当にトメさんのことが大事だし、どこまでもだいすきで、きっとずっと「優しくて綺麗なおっかあ」だったんだと思う。尾形はただ愛されたかったし振り向いてほしかったし見てほしくて、きっとそれだけで他には何もいらなかったのかもしれない。尾形は父上にも「母に愛してると示してほしかった」だけで、自分のことは一度も何も求めなかったくらいだし。

 113話あんこう鍋の「少しでも母に対する愛情が残っていれば父上は葬式に来てくれるだろう」「でもあなたは来なかった」「仮にあなたに愛情があれば母を見捨てることはなかったと思います」というの幸次郎への告白が悲痛すぎる。そのあとの宇佐美との会話で尾形は「最後に(幸次郎と)色々話したかったから」と言っていて、尾形は父上が葬式に来てくれたら、それだけで本当に満足だったんだろうと思う。ただ「母を愛していてほしかった」だけなんて、他者に対して愛への期待値が本当に低すぎる。そんなんだから、最後に「勇作だけが俺を愛してくれた」と勇作のあれを愛だと言い切ってしまえたんだろうね。これは尾形の望む者は何一つ与えられなかった証明だし、「愛した瞬間があったということでは?」と納得していたところから考えると、尾形はほんの一瞬でも愛してくれたという事実があれば一生それを大切にして生きていけるタイプなんだろうなと思う。あまりにも一途で多くを望まず。とにかくいばらの道すぎる。

 母の愛が報われる道を模索した果てに、尾形は母殺しへと到達する。これは尾形の一番最初の間違いだった。でもどうしたって殺した事実は取消しようがない。永遠に横たわり、いつまでもついて回る重たく揺らぎようがない事実だ。尾形はそれらを見たくなくて蓋をしていたが、彼はサイコパスぶってるだけの普通の感性を持つ人間である。だから罪悪感や迷いが出るし、243話上等兵たちの「お前ロシア兵を殺して悪かったって思わないよな?」にも表れていると思う。対して宇佐美は本当に罪悪感を感じない人間だ。宇佐美は真のサイコパスなため、罪悪感も迷いもない。尾形の問答に付き合った宇佐美は迷いなく「そのとーり」と肯定してしまえる。この肯定で、尾形は軌道修正の大きなチャンスを失ってしまったのかもしれない。間違いを正す機会を失った尾形は「欠けた人間」の証明をするしか道がなくなったのだ。そして人生を軌道修正できないから、尾形は俺をその人の代わりにして欲しい、自分を見て欲しい、愛してほしいと求めてはその度に「やっぱり俺ではダメなんだ」と確認行為を続けてしまう。これは自傷行為と何も変わらない。

 もし仮にだけど、トメさんを恨んで憎んでいたならよかったのかもしれない。月島みたいに憎くてしょうがないから殺したという方が、よっぽど筋が通っていたと思う。尾形と月島は通過儀礼として親殺しがあるけど、「愛しているけど殺した」と「憎んでいるから殺した」は全く別物だ。「憎んでいるから殺した」というほうが、精神の道理や理屈としては筋が通っていて健全な流れなのではないだろうか。親殺しは全く健全ではないんだけど。方法を間違えてしまったから一生間違え続けるしかなくなったなんて、どこまでも哀れで哀しい。

 初めは尾形にこんなに狂うとは思わなくて、最初は初めて死ぬタイプの推しができたからかなって思ってた。もうこれ死ぬわって感じたあたりから苦しくて吐きそうって言いながら漫画を読み進めたのも初めての体験だった。苦しかったけど、悲しいわけではないのにも驚いてる。あ、私は尾形の死を悲しまないんだって。むしろやっと救われたことが、祝福があったことがわかって清々しかった。今にして思うと、尾形への愛は尾形を形成する性格や不遇な環境、本人の問題など全てひっくるめての尾形だから愛しているのであって、もし生きて救われてしまったらそれはきっと私の愛した彼ではなくなってしまうかもしれないんだよね。それに尾形が生きて救われるなんて、尾形には無理な話だったことも理解している。本当に尾形を見てると色々考えてしまう

 尾形の「俺に銃を向けるな殺すぞ?」とか「頼めよ『助けてください尾形上等兵殿』と」っていうのは、今にして思えば、ちょっとイキるとかそういう感じなのかもしれないな。調子に乗っているというか。可愛い。バブ形オギャ之助すぎる。もはや幼すぎて可愛い。幼いというかちょっと赤ちゃんが過ぎる。なんだか騙されやすいし、幼いし、繊細故の生き辛さを感じていそうだな。尾形見てると、来世はみんなでチタタプしたりラッコ鍋を食べたり得意げそうに狩ったものを見せたりあんこう鍋を食べたりして、たくさん愛されてほしい。