恭弥さんの日記

徒然なるままに好きなことを綴っていく

ようこそ、デュード。これであなたは町の住人です。

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 借金取りに追われて袋叩きにされていた蒼山は、ひげをたくわえて黄色いツナギを着た男に助けられる。男はポールと名乗り、蒼山をデュードと呼んだ。そして居場所を用意してやると言われ、蒼山はフェンスに囲まれた大きな建物に連れていかれる。そこは衣服も食事も住居も保証され、自由にセックスができるが妊娠は禁止という不思議な町だった。町へ入ると首に何かを打ち込まれ、友愛の印としてのパーカーと部屋の鍵が支給された。蒼山はハッテン場となっているプールで末永緑と出会い、彼女からこの町の色々なルールを教わることになる。蒼山も次第に町での生活にも順応し、日々を謳歌するようになっていった。しかし出入りするのは自由なのにも関わらず、なぜかそこから離れられないことに気づく。

 ある朝紅子はテロのニュースで行方不明の妹、末永緑を見つける。しかし緑が収容されているはずの病院は、紅子を素気無く追い返した。紅子は病院関係者と会話していた黒いスーツの男を尾行し話かけると、男から「自分を見失うことになるがいいか」と黄色い紙を渡される。そこには町へのバス乗り場が記されていた。その夜バス乗り場で書類にサインして、町で緑と再会する。しかし緑は娘のももへの関心はなく、また緑は居心地のいい町から出ることを拒んだ。見かねた蒼山が紅子をもものいる子供ルームに連れて行くが、紅子はももの将来を案じるのだった。

 紅子は町での生活を「何も感じない」と評して野外作業中に逃げ出そうとするが、蒼山はそれを制止し彼女に「好きです、愛してます」と告白した。その夜「ももを連れてここを出よう」と紅子を説得する。そして計画通りに蒼山がチューターから黒い機械を盗み、紅子はももを連れ出すと、できるだけ遠くに逃げようとフェンスを越えて歩き出した。しかし機械の電池が切れ、首に埋め込まれたもののせいで頭に音楽とノイズが鳴り始める。そこへ女性のチューターが現れて信号を止めると、3人を車に乗せ「あなたたちは別に抵抗もしなかったから、帰って今まで通りに人数としてやって」と話しかけた。その瞬間「人数」という言葉を聞いた蒼山がチューターを殴り倒し、車を奪い逃走を始める。その足で紅子のアパートに戻るが、そこには見知らぬ人が住んでおり、また役場で紅子の戸籍を照会しても戸籍がない。お金もなく、装置から離れると音楽とノイズが流れる。そんな中、紅子の妊娠が発覚した。説明を聞いて病室から出てきた蒼山に、ポールが「戸籍がなかったら何も出来ないでしょう」と話しかける。またポールがバスの紙を渡し「場所は違うがルールは同じです」と町へ戻るよう誘導するも、蒼山は「僕は行かない、家族がいるんだ、自分たちの力で生きていく」と言い放つ。

 朝。綺麗な部屋で、お腹の大きくなった紅子とももの三人で川の字で寝ていた蒼山。目が覚めこっそりとベットを抜け出すと、ネクタイを締め出社していった。部屋にはあの黒い機械が2台置かれている。そしてチューターになった蒼山は、新入りの青年に「お前はもう自由だ」と話すのだった。

 


 2019年公開。中村倫也主演の謎の町を描いたミステリー作品、人数の町。目の付け所は秀逸だし、タイトルもかなり惹かれるものだ。また構成もわかりやすくて、ゾワゾワする前半とモヤモヤする後半の2パート。前半はバイブルを読まない主人公と、謎の町の説明だ。指示された通りの簡単な労働――ネット掲示板への書き込みや、別人になりすましての選挙投票――を行ってさえいれば衣食住の保証はされる。また好きなだけセックスを楽しむこともできるという退廃的な日常。時々ちらつく住民の過去。後半は妹を探す姉が町に溶け込んだ妹を放ってその娘と主人公とで町を命がけで脱走し、最後は組織に取り込まれて人数になるという話だ。こういう物語は結末が大抵二択で、主人公達がシステムを破壊するかシステムに呑み込まれるかだけれど、これは後者だった。逃げた意味はあまりなかったかもしれないな。いや、住むところと家族を得ているので、それだけの価値はあったのか。とにかくいろんな経緯がはしょられていてモヤモヤした。

 この町は主人公のような人間や、生きるのに疲れた人には至れり尽くせりかもしれない。義務さえこなしてれば衣食住に性欲まで保証されるのだ。映画を見ながら、もしかして理想郷なのでは?羨ましいな?と一瞬私も思った。冷静になってよく考えてみると親兄弟、友人にも会えず、施設内で家族も恋人も作れないと言われると、そこまで嬉しくはないかもしれない。子供と一緒に入所しても一緒に生活はできないし、戸籍もないので自由に外に出ることはできない。それを象徴するように、作中では誰も名乗らない。唯一紅子だけが緑を名前で呼んでいる。紅子の存在はとても異質だった。それによって蒼山はこの町の正体と直面することになるのだけれど。

 そういえば脱走して女性のチューターに捕まったときに「人数としてやってくれればいい」と言われて、主人公がチューターを殴ったシーン、私実はよくわからなくって、主人公が最後チューターとして出てきた時にやっと理解した。あ、これ人数になっているなって。その時にとてつもなくぞわっとした。あれって誰かから奪って勝ち得た役職なんじゃなかろうかとか、反乱分子すぎるのでチューターになるのと引き換えに家と家族を得たのかとか。何もわからないが、結局最後は人数になってるなとか。究極まで突き詰めるとなんだか現代社会も現代人もこれに近いものがあるなとか。一瞬で脳内にいろんなものがぐるぐると駆け巡ってしまった。

 映画全体としては一定のリズムや空気感が映画の終盤まで続いていくので、全体的に雰囲気はよい。面白い設定だとも思う。しかしなぜ町があるのか。どういう町なのか。別で保育されている子供たちはどうなるのかなど、全くわからない。謎だらけだったためか映画の核心がつかみにくい。この町があることで、誰が得をするのか。この町は誰が何のために作ったのか。その辺りが明確に出ていれば、もっと違った印象になるのだろうと思う。全体的に後は推察してねと、受け手の解釈に大いに頼りすぎている気もした。